最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)456号 判決 1969年9月12日
上告人
山川次
代理人
表権七
被上告人
神村久満
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人表権七の上告理由第一点について。
原審の適法に確定したところによれば、本件事故は、自動車修理業を営む上告人が訴外京都共盛市場運輸企業組合から修理のため預かり保管中の加害自動車を、上告人の被用者である訴外中井洋允が運転中に引き起こしたものであるというのであるところ、
一般に、自動車修理業者が修理のため自動車を預かつた場合には、少なくとも修理や試運転に必要な範囲での運転行為を委ねられ、営業上自己の支配下に置いているものと解すべきであり、かつ、その被用者によつて右保管中の車が運転された場合には、その運行は、特段の事情の認められないかぎり(被用者の私用のための無断運転行為であることは、原審認定のような事情のもとでは、ここにいう特段の事情にあたらない。)、客観的には、使用者たる修理業者の右支配関係に基づき、その者のためにされたものと認めるのが相当であるから、上告人は、本件事故につき、自動車損害賠償保障法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者としての損害賠償責任を免れないものというべく、この点に関する原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。
それ故、論旨は採用することができない。
同第二点について。
所論は原判決に民法七一五条の解釈適用を誤つた違法があるというものであるが、前叙のとおり、自動車損害賠償保障法三条による上告人の損害賠償責任を認めるべきものである以上、重ねて民法七一五条の適用を問題とする要はなく、同条に関する判示は、原判決の結論に影響がないから、この点に関する違法をいう論旨は、採用のかぎりでない。
同第三点について。
本件事故が前記中井洋允の過失と被害者たる被上告人の過失とが競合した結果生じたものであるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯するに足り、この点においても、原判決に所論の違法はない。それ故、上告人につき自動車損害賠償保障法三条但書による免責を認めなかつた原判決は正当であつて、論旨も採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)